北茨城のあんこうと太平洋。「民宿むらた」様

水戸は松五郎でスタミナラーメン・冷やしをいただき、幕末のテロ集団に思いを馳せながら太平洋沿いを北上しました。目的は「アンコウ鍋」です。

あんこうは1月が旬ですが、それは「肝」が大きくなるからです。寒さに備え、産卵に備えるためだそうです。この辺のあんこうは「キアンコウ」といい、普通のあんこうより美味とのこと。

食べ方は幾つかあるのですが、水が貴重な船上で船乗りが考え出した食べ方が、「どぶ汁」。水を使わず「肝」と大根、人参などの野菜から出る水分でこしらえます。

これが基本ですが、普通に鍋としていただく「水炊き」。ポン酢で食べますがまだ食べたことはありません。神田の伊勢源という老舗が有名店だそうです。行きたいな。

今まで3回ほどいただいており、

1回目:大洗の旅館:生臭かった。もういいやと思った。

2回目:鹿児島の魚介専門店。なんで鹿児島であんこうどぶ汁?と思ったけど幹事が悪いのかな?本当に、もういいやと思った。

3回目:福島県に引っ越してきたので良く行く料理やさんに相談してどぶ汁を作ってもらった。すごく美味しくいただけた。今までのものはなんだったのか?

で今回で4回目。良く行く料理やさんの大将が「やっぱりあんこうは北茨城の民宿だよ」と勧める。では行ってみようと向かっているのが、今回の目的「アンコウ鍋」発祥の地北茨城なのです。

水戸から北茨城へと北上する海辺の道は日立の企業城下町を縫うように走り、あまり住人や旅人のことは気にしない街の作りだなあと思いながら、海辺に出ては街道に戻りを繰り返す。海辺のハイウェイなどここにはないのだ。あるのは漁村の細かい道と荒れた畑地と海風に煽られて傷んだ住宅。海から少し離れた高い場所には日立の工場群。天気も悪いので空を映す海の色も鉛色で、車中の人たちは日本海みたいな太平洋だねという。日本海が少し気の毒になる。

一時間強走ると、目的地の民宿「むらた」へ。海岸沿いの奥まったところにある大きなお家だ。人の良さそうな優しそうなおかみさんがお出迎えしてくれる。民宿はほぼ初めてなのでどう評価していいかわからないけど、清潔で過ごし易そうな感じであった。

肝心のアンコウ鍋ですが、思ったよりどろっとしていないお汁をおかみさんが見せてくれた。「?」と驚くと、「ここはどぶ汁じゃないの」と仰る。そもそもどぶ汁は船上の食べ方で、脂っぽくて美味しくないわよ、とのこと。ちゃんと昆布で出汁をとって、そこに煎った肝を溶き入れるのよ、と仰る。

これは奇なり。そもそもどぶ汁発祥の地ということで北茨城に来たのに「どぶ汁」を真っ向から否定していらっしゃる。

さらには、「私は吊るさないの」という。「だって可哀想でできないわよ。何も残らないんだもの」あんこうは身がゆるいので吊るして胃袋に水をたくさん入れて形を作ってから皮を剥ぎ、さばいていく「吊るし切り」が有名。北茨城市のホームページにも、いかにもそうな板前さんが。吊るされたあんこうと睨み合っている写真があります。もはや何でもありで面白い。

さて、お料理のですが、山ほどご提供いただいた。冷凍のあんこうは使わないとのことで、本当に平潟で上がったあんこうを生のまま、捌きたてを使う。当然「身の開き方」が違います。出汁につけると、ぷわっと身が広がる。これカニもそうだというんだよな、確か。

ちょうど良い塩梅の肝の濃さのだし汁にドサドサとあんこうを入れ、野菜を入れる。5分くらいすると火が通る。どこの部位かよくわからないまま、箸をつける。黒いのは皮、硬いのは骨、くらいはわかる。尻尾やヒレも美味しくいただく。ぷるぷるしているのは、コラーゲンだそうな。

「あんこう鍋」は要するに「あら鍋」なの、とおかみさんは言う。身の美味しところは共酢和えで出しちゃったわよ、と。いわゆる他の魚の「身」にあたる部位は背骨に沿った筋肉しかないのだ、という。そこと胃袋は湯がいて共酢で先ほど美味しくいただいてしまった。なるほどね。

こんなに食べられるわけないよね、と思いながらも「これはどこだろう?」と思いながら箸を動かしていると鍋が空いた。肝の出汁をおかみさんが追加してくれて、そこに大量のご飯を投入。絶妙な味のおじやが出来上がった。塩気も少なく、肝の風味が穏やかに漂う。

肝の風味とは、カニの味噌みたいな風味だとようやくわかった。それほど濃くなく、強い印象も与えないけれど、優しく包み込むような感じの海の豊かさの味。お腹一杯になって、二次会もなくそのまま休んでしまった。

さて、次の日。おかみさんに聞いた「あんこうサミット」の会場に向かう。テントを広げた朝市のような会場に入ると「あ、あんこうの香りだ」と一同了解する。会場にはあんこうの香りが一面立ち込めていて、黒山の人だかりの上を、遠くから大小の海鳥が行き交っている。美味しそうな匂いがするのだろう。

あんこうは全世界の深い海で採れるので、当然日本中にあんこう料理店がある。日本はきっとあんこうでつながっているのだ。今日のサミットは日本中からそのあんこう料理店が集まって、オリジナルアンコウ鍋を披露する。一杯300円、5杯で1,000円。でもそんなに食べられない。

個人的には、イシルをを使った石川県のアンコウ鍋も美味でありました。